シンポジウム内容.2

【日時】2019/9/1 日本心理学会第83回大会(立命館大学主催 大阪いばらきキャンパス)
公募シンポジウム:犯罪捜査と記憶2

企画代表者尾藤 昭夫(奈良県警察科学捜査研究所)
司会者桐生 正幸(東洋大学)
話題提供者尾藤 昭夫(奈良県警察科学捜査研究所)
福島 由衣(日本大学)
指定討論者蓮花 一己(帝塚山大学)
中園 江里人(近畿大学)(非会員)

※日本心理学会に提出した要旨から要約したものです。

趣旨説明

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企画趣旨

物証や状況証拠はスポット的な証拠であるため、これらによる事実認定では事件のストーリー的な再構成が必要であり、エラーが混入する可能性も皆無ではない。こうしたリスクを回避するには事件関係者の記憶に訴えるという方法が考えられる。ところで、取調べは事件関係者から事件の記憶を引き出す技術であり、ポリグラフ検査は生理指標を用いた記憶再認テストである。そこで、我々は昨年の日本犯罪心理学会第56回大会(奈良女子大学)の学会主催シンポジウムでポリグラフ検査にて誤認逮捕を回避した事例を紹介した。しかし、近年、誘導等の問題によって供述等記憶にまつわる証拠への信頼度が下がっている。そこで、取調べにおける被誘導性を下げる方法についても議論した。今回は、さらに、供述証拠、ポリグラフ検査を事件解決に寄与する証拠とするため、心理学は何をすべきかについて考察する。

文責 尾藤

話題提供1「犯罪捜査と記憶2」

福島 由衣(日本大学)

人間の記憶は比較的短時間のうちに減衰する。また、外的要因に対して脆弱である。したがって、記憶に関する証拠は元々の形が失われてしまわないようにするためには、慎重に扱わなければならない。2016年の刑事訴訟法の改正で取り調べの一部が録音録画されるようになったが、目撃者の聴取の可視化は行われていない。現在、目撃証言についても多様な聴取方法が提案されているので、本発表ではそれらについて概観し、それらがどの程度有効で実務で利用可能なのかについて議論した。
なお、議論の俎上に挙げたのは、認知インタビュー(司法面接)(法と心理学会編,2005)、目撃者遂行型調査、二重盲検法の使用(Gabbert, Hope, & Fisher, 2009)、識別判断の選択肢に「わからない」判断を明示(福島・三浦・厳島,2016;Weber & Perfect,2012)、カメラアングルの適正化であった。

福島由衣・三浦大志・厳島行雄(2016).面接者の誘導の繰り返しの写真識別判断に与える影響,法と心理,16,100-111.
Gabbert, F., Hope, L., & Fisher, R. P.(2009).Protesting eyewitness evidence; examining the efficacy of a self-administered interview tool,Law and Human behavior,33,289-307.
法と心理学会・目撃ガイドライン作成委員会(2005).目撃供述・識別手続きに関するガイドライン,現代人文社.
Weber & Perfect(2012).Improving eyewitness identification accuracy by screening out those who say they don’t know,Law and Human behavior,36,28-36.

話題提供2「法学と心理学の間をいかに架橋するか」

尾藤 昭夫(奈良県警察科学捜査研究所)

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指定討論1「犯罪捜査と記憶2」

蓮花 一己(帝塚山大学)

※法曹界には、科学的検査であっても、ポリグラフ検査に「うそ発見器」というイメージが根付いてしまっている以上、CISエフェクトの観点から裁判員裁判では証拠として採用すべきではない、という議論があるということを聞いた。
これは、科学的証拠を裁判員が過信して判断するということで、科学による一種の「誘導」とみなしていると考えていいと思う。
しかし、実際には、多種多様な「誘導」が存在する。一つの方向の誘導、リスクだけを取り上げるのは、問題だろう。
ところで、犯罪心理学会等はどう反応したのか?ちゃんと反論したのか?

→特に反応していない。知らなかったと思う。学会マターにする必要があると思う。それも、このシンポの目的のひとつである。

※交通心理でのリスクである高齢ドライバーに関する研究している。
Miss(見逃し)によるリスクは、事故を誘発する可能性の高いドライバーを野放しにするということを意味する。認知症の高齢ドライバーに対して世間の目は厳しく、少しでも認知症状が出れば運転を止めさせろという風潮である。
一方、False alarm(誤警報・誤検知)によるリスクとして、正常なドライバーなのに、軽度認知障害(MCJ)の場合は運転できるのに認知症とされ免許を取り上げられるといったことが考えられる。結果として、生活の質が低下し、社会全体のコストが上昇する。
対策として、運転支援に安全サポカー限定免許というのもある。また、自動車運転外来(愛宕病院)というかたちで教育訓練した後で、運転行動の試験をすることも考えられている。さらに、高次機能障害者の支援として、医療やリハビリテーションとの協働も考えられる。
第1のステップとして、alarmの閾値を下げて対象者を増やし、第2のステップとして、丁寧な診断(アセスメント)と教育訓練を充実し(専門家の活用)、第3のステップとして、複数の選択肢を用意するという方針で動いている。

交通心理でのリスクである高齢ドライバーについての議論をモデルに犯罪心理におけるリスクを考えてみる。
Miss(見逃し)によるリスクは、犯罪を犯す可能性の高い人物を野放しにするということを意味する。特に、性犯罪者に対しては世間の目は厳しい。GPS等を装着させ、居場所を特定すべき、という意見があろう。
一方、False alarm(誤警報・誤検知)によるリスクとして、無実なのに犯罪者として処罰される、過失なのに故意とされる、ということが挙げられよう。もし、間違われた場合、失われた時間は帰ってこないということは大きな問題である。
対策は同様である。第1のステップとして、alarmの閾値を下げて、対象者を増やし、第2のステップとして、丁寧な診断(アセスメント)により、専門家としての診断書を作成する、ということが言えると思う。そして、専門家の育成と多様な専門家の間のネットワークの形成をすべきだし、脳科学や神経科学の成果を活用して、ポリグラフ技術の発展が必要であろう。また、裁判員制度への対応として、国民への啓発も大切であろう。

→ alarmの閾値を下げて、というのはスクリーニングとしてのポリグラフ検査のことと思われる。CQTという質問法を用いてかつて行われていた。現在の科学の水準からすると、CQTは問題のあるものであるため現在は行われなくなっている。
→P300等の事象関連電位を用いようとする試みは歴史が長い、近年では特にNIRS(近赤外分光法)が注目を集めている。

リスクが関わる問題についてはリスクコミュニケーションが重要である。ポリグラフの利用と限界、問題点を国民に丁寧に説明し、活用例を積極的に広報し、マスコミやSNS情報の間違いについては周知する等の対策が必要である。
リスクマネジメントとしてのポリグラフの活用を考えてみるべきであろう。まず、押さえておかなければならないのは、ゼロリスクは不可能であり、できることはリスクの適切な管理だけである、ということである。
見逃しによるリスクも誤警報によるリスクもどちらも存在する。専門家は誠実に検査結果のアセスメントを実施し、裁判所にアセスメントを報告すればよい。
裁判所あるいは裁判員は専門家の報告を尊重しつつ、他の証拠等に基づいて判決を行うであろう。
アセスメントの結果は可能な限りであるが、公表できればよいであろう。

→特に昨年のシンポは、冤罪・誤認逮捕の回避方略としてのポリグラフを扱った。これは、リスクマネジメントとしてのポリグラフがどの程度役に立つかについて議論したものと考えている。

指定討論2「犯罪捜査と記憶2」

中園 江里人(近畿大学)(非会員)

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